東京
若い時、東京で働いていた。生まれは東京だけど、親の都合で神奈川の田舎に越してから東京はとても遠くなった。
それでも1時間くらいかけて新宿まで通っていた。満員電車で。毎日うんざりしていた。
でも、若い時は東京以外は街では無い気がした。
横浜だって逗子だってやっぱり田舎だった。
東京にはごまんと人がいて、種々雑多いろんな人がいて、こっちがどんな格好をしていても誰も関心を示さない。田舎者でも貧乏人でも。
ところが田舎は違う。ちょっと変わった身なりをしていると、近所でごそごそ言われる。
行動も監視される。はっきり言われないが、無言の圧力がある。
じいさんはジョギングする私を無表情で上から下までじっと眺める。
どこへ行くにも田舎の人たちは一人では行かない。映画に一人で観に行く女の人は殆どいない。
東京だったら何処へでも一人で行けた。誰もまったく何も関心を示さないから心が自由だ。
でも、最近は東京に行くと緊張する。
知らない高層ビルがいっぱいで人間はその下をアリのように動いている。
どっちへ行けば目的地に着くのかわからない。スマホでグーグルに頼る。
私がいた東京は、一番高いビルが霞ヶ関ビルか京王プラザくらいだった。それさえも高いビルが出来たなあと思ったものだった。
スカイツリーが私の生まれた場所の近くに立った時、メガゴジラに侵略されたような気がした。
もう東京は私にとって架空の街になった。
そして、今住んでいるここは墓場のようだ。